僧帽弁狭窄症とは
石灰化により僧帽弁が固く狭くなり、次第に血流が妨げられる病気です。
初期には症状が現れにくいため健康診断や他の病気で受診した際に偶然見つかることもあります。
胸痛が出てから「狭心症」を疑って受診する人もいます。
僧帽弁狭窄症の原因
リウマチ熱の後遺症であることがほとんどです。リウマチ熱は、溶連菌(溶血性連鎖球菌)による咽頭炎が引き起こす全身性の自己免疫疾患で、発熱や関節炎などを起こすだけでなく、心筋の組織も侵し、しばしば僧帽弁に炎症を引き起こします。リウマチ熱のほとんどは小児期にかかると言われていますが、近年は抗菌薬の普及や衛生環境の向上もあり、先進国では減少傾向にあります。
僧帽弁狭窄症の症状
初期は多くの人が長期間無症状であることが多いですが、進行して心拡大が起こり、左心室の機能が低下するにつれ、心臓や肺に負担がかかるようになり、息切れや胸痛、心不全の症状が現れます。
僧帽弁狭窄症の検査方法
聴診で心雑音が聞こえた場合、心エコーで詳しく調べます。この検査によって僧帽弁の弁口面積などもわかります。
胸部エックス線や心電図検査も併せて行われますが、僧帽弁は胸の深部にあるので通常のエコーでは見えにくい場合”経食道エコー”を行うこともあります。
僧帽弁狭窄症の治療について
軽度から中等度の場合
軽症の場合は、利尿薬や血管拡張薬などの薬の服用による内科的治療で、心臓の負担を減らす、不整脈を予防する、血栓を予防するなどの治療を行います。ただし内科的治療は、あくまで進行を抑える対症療法であり、僧帽弁そのものを修復することはできません。
中等度~重度の場合
呼吸困難などの症状が出ていたり、心臓の負担が増している場合は、根治に向けた外科的治療が必要です。
また、症状が無くても、超音波検査で弁口面積が1.5㎠を下回るようであれば手術適応です。心房細動を合併している場合は、僧帽弁を治療するだけではなく、心房細動を抑える手術(メイズ手術など)も検討します。
僧帽弁狭窄症の治療(手術)法
僧帽弁狭窄症に対しては、ほとんどのケースでは弁置換術が選択されますが、他にも弁形成術とカテーテル法があります。
僧帽弁弁置換術
弁置換術では弁を人工弁に置き換えます。当院では、手術支援ロボットを用いたキーホール弁置換術を行っており、小さな傷だけで治療が可能です。この弁置換術は、2024年6月から保険適用となりました。
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置き換える人工弁には、機械弁と生体弁があります。
- 機械弁は特殊なカーボン材でできていて、弁の寿命は半永久的です。ただし、弁の周辺に血液が凝固しやすいので、手術後は血を固めないための薬剤(抗凝固剤:ワーファリンなど)を毎日飲み続ける必要があります。
- 生体弁は牛の心膜や豚の大動脈弁を加工したもので、機械弁におけるような血液凝固薬の服用はありません(ただし、手術後3~6か月くらいは抗凝固剤を服用する必要があります)。問題は機械弁ほど長持ちしないことです。僧帽弁に入れた生体弁は一般に、10年から15年程度(若い人だと10年以下)で劣化するので、そのときには再手術が必要になります。僧帽弁に生体弁を入れた場合には、大動脈弁のように長持ちはせず、10年経たないうちに壊れることをよく経験しています。
僧帽弁形成術
僧帽弁形成術とは、自己の弁を温存し、縫ったり繋いだりして障害箇所を治す手術です。僧帽弁狭窄症に対しては弁形成術が困難なことが多く、ほとんどのケースでは弁置換術が選択されるのです、病変によって弁形成術が可能な場合がありますので、まずはご連絡ください。当院で行っている僧帽弁形成術は、ロボットによるキーホール手術(保険適用)が基本です。
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まとめ
僧帽弁狭窄症は、心臓の中で血液が逆流する病気ですが、初期は自覚症状がなく、多くの人が進行し、呼吸困難などの心不全の症状が出て初めて気がつきます。
薬では治せず、完治しようとすれば手術するしかありませんが、幸いなことに、手術法は目覚ましい進歩を遂げています。ロボット支援のダビンチ手術やMICSなどの最先端の手術なら、体に優しく安全で、早期の社会復帰が可能です。ただし、施設によって経験と技術力に大きな開きがあるので、その見極めが肝心です。
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