鍵穴手術(キーホール手術)に思う

鍵穴手術と言うことを聞いたことがあるでしょうか?
キーホール手術とも言います。主に脳外科などで頭蓋骨に1円玉ほどの穴を開けて、そこから監視や手術器具を入れて脳の深いところの手術をする方法です。

福島孝徳先生という先生が頭蓋底手術に応用し、皆の知るところになりました。以前から欧米では「keyhole surgery(キーホール サージャリー)」として知られ、特殊なトレーニングを受けた一部の腕ののある外科医のみしか行えない特別な手術と言う位置づけです。

腹部外科や胸部外科では内視鏡手術が行われるようになりましたが、がんの手術の場合には元の病巣を体からとり出さなければならないので手術操作をキーホールで行っても、結局は取り出すために穴を大きくしなくてはならないので全てを完全内視鏡で終わる事は残念ながらできません。

考えられる手術の中で鍵穴手術(キーホール手術)が可能なのは脳外科、心臓手術など悪性腫瘍を取り除いたりしなくても良い手術で可能かと思っています。

鍵穴手術(キーホール手術)に思う私たちは、2000年からキーホール手術の魅力を感じ、数多くの実験や臨床を通して心臓手術に応用してきました。2005年からはダビンチが入りましたのでそのダビンチの魅力である3次元内視鏡のハードを利用した鍵穴手術(キーホール手術)を行ってきました。小切開手術と完全内視鏡下のキーホール手術にはものすごく大きな壁があります。道具や技術及び経験など血のにじむような努力をして今の私のキーホール手術に至っています。

また、キーホール手術をすることにより、手術時間が伸びたり、心臓の場合は心停止時間がも伸びたりすると本来の体に優しい手術という意味がなくなってしまいますので、従来と同じかそれよりも早く終えるようなキーホール手術をすることが最も大切なことです。

鍵穴手術(キーホール手術)に思うさて鍵穴手術(キーホール手術)はその傷の小ささや体への影響を考えると、とても魅力的な言葉ではありますが、はっきりした定義が決まっているわけではありません。常識的には1円硬貨ないしは1セントコインの大きさで手術が可能であれば鍵穴手術といっても良いと思われます。

胸部外科の場合では肋骨と肋骨の間がほぼ1円玉の大きさですから、それ以上開けることになるとこれはキーホールとは言えません。3センチも開ければ立派な手術になり、ソフトティッシュ・リトラクターであってもリトラクター(開胸器)をかけたことと同じになります。そうなると定義に歯止めがきかなくなり、10センチのソフトティッシュ・リトラクターをかけても鍵穴手術と言うこともできなくはありません。

後は言葉を使う側のリテラシーが問われることになります。ホームページなどで完全内視鏡や鍵穴手術を歌っている人々はその多くが小切開手術を利用したもので、キーホール手術とはほど遠く偽物と呼ばれても不思議のない手術をしています。

患者さんにはわかりません。このような詐術を使う外科医がいる限り私は発信し続けようと思っています。
羊頭狗肉に騙されないでください。
(院長 渡邊剛)