心筋梗塞は、急に胸に激痛が起こり、胸に締めつけられるような圧迫感を覚える危険な心臓の病気です。救急車で病院に担ぎ込んで早急に治療を施さないと、死を招きやすいことでも知られています。

多くの人を前触れもなく突然襲う恐ろしい病気と言えますが、じつは予兆はあり、予防方法もあります。

ここでは、ふだんからどういうことに気をつけていれば心筋梗塞が防げるか、具体的な方法を解説します。

心筋梗塞とは?

心筋梗塞を含む心疾患(心臓の病気)は、悪性新生物(がん)、脳血管疾患(脳卒中)と並ぶ日本人の三大死因のひとつです(近年はこの3つに加え、肺炎で亡くなる人が急増しています)。

心筋梗塞は心疾患の代表的なもので、心筋(心臓の筋肉)に充分な血液が行かなくなることで起こります。

心臓の表面には冠[かん]動脈という血管が走っていて、心筋はその冠動脈を通して、活動に必要な酸素と栄養分を受け取っているのですが、その冠動脈が詰まると、血液が心筋に流れなくなり、流れなくなった先の心筋は死んでしまいます。

心臓のポンプ機能は、心筋が収縮と拡張を繰り返すことで維持されています。したがって、心筋梗塞を起こし心筋の一部が死んでしまうと、ポンプ機能がちゃんと働かなくなって、心不全(心臓の機能不全)を引き起こしてしまうのです。

心筋梗塞の原因・症状・治療・手術方法をわかりやすく解説したページはこちら。

心筋梗塞

特に注意すべきは急性心筋梗塞?

心筋梗塞には、発症後経過した時間によって、急性心筋梗塞(発症して72時間以内)、亜急性心筋梗塞(72時間から1カ月)、陳旧性心筋梗塞(1カ月以上)がありますが、亜急性や陳旧性は急性で発症した心筋梗塞が一応の安定を見たもので、まずは急性心筋梗塞として発症します。

厚生労働省が発表した平成27年の人口動態統計によると、心疾患(高血圧性を除く)による死亡者は19万6113人で、全死亡者の15.2%(これはがんに続く第2位です)、心疾患の中では急性心筋梗塞が3万7222人で、心疾患全体の19.0%を占めます。この数字から、いかに多くの人たちが急性心筋梗塞で亡くなっているのかが、お分かりいただけるでしょう。

急性心筋梗塞では、心室細動という危険な不整脈を合併しやすく、そうなると、素早い適切な治療の有無が生死を分けます。亡くなる人の半数以上が、発症後1時間以内に集中しています。

心筋梗塞の原因

心筋梗塞が起こるのは冠動脈が詰まるからですが、ではなぜ冠動脈が詰まるのかといえば、血管が動脈硬化をおこし狭窄(狭くなる)となったり、攣縮[れんしゅく](痙攣したり収縮したりすること)したり、炎症を起こしたりするからです。

そうした原因の中で最も主要なものは、動脈硬化です。動脈硬化とは、高血圧や脂質の過剰摂取などのさまざまな要因で血管が柔軟性を失い、硬くなってしまう現象です。

血液中の「悪玉(LDL)コレステロール」と呼ばれる脂質が、硬くなって傷ついた血管壁の内側に入り込むと、血管壁はコブのように膨れ上がります。この脂質のコブがいよいよ大きくなって破裂すると、そこに急速に血栓(血の塊)ができ、血管を塞いで血液の流れを止めてしまいます。この状態が心筋梗塞です。

心筋梗塞を呼ぶ要因としては、高血圧、肥満、糖尿病、高脂血症(コレステロール値や中性脂肪値が高い状態)、高尿酸血症(尿酸血が高い状態)、ストレス、喫煙、家族歴などがあります。

ちなみに、心筋梗塞に似た病気の狭心症は、血管が詰まるのではなく、狭くなるもので、心筋梗塞と合わせ、虚血性心疾患(虚血性とは血液が不足している意)と呼ばれます。

心筋梗塞の予防方法7つ【食事編】

心筋梗塞の予防は、何より動脈硬化を起こさないことで、それには、食生活における工夫が一番です。次の7つを実践しましょう。

①塩分の摂取は控えめに

血液中に塩分(ナトリウム)が増えると、血圧が上がります。血圧が高い状態が続くと、血管壁は圧力に耐えようとして、厚く硬くなってしまいます。したがって、動脈硬化を抑える第一歩は、血圧を低く抑えることです。

それには、食事の際、塩分を控える必要があります。1日の塩分摂取量は、できれば6グラム以下に抑えましょう。

ラーメンやうどん、そばなどの麺類の汁は、塩分の塊のようなものです。スープや汁を飲み干すのはやめましょう。

塩味に対する感覚は習慣的なものです。最初は物足りないように思えても、塩味の薄いものを食べ続けていると、舌が慣れてきて平気になります。調理法を工夫し、塩を使う代わりに、酢やレモン、香辛料などを利用するのもひとつでしょう。

②動物性脂肪はなるべく避けよう

脂肪の主成分である脂肪酸には、常温では固体の飽和脂肪酸と、常温では液体の不飽和脂肪酸があり、飽和脂肪酸は血液中の悪玉コレステロールを増やし、動脈硬化を促進します。

肉や乳製品などの動物性脂肪には、飽和脂肪酸が多く含まれています。ベーコンやコンビーフなどの肉の加工品の脂や、ラードやヘッドなどの脂も、飽和脂肪酸です。植物性脂肪であっても、ヤシ油などには飽和脂肪酸が少なくありません。一方、魚の脂肪は不飽和脂肪酸です。

また、不飽和脂肪酸の中には、トランス脂肪酸と呼ばれるものがあります。飽和脂肪酸だけでなく、このトランス脂肪酸も、過剰に摂取し続けると血液中の悪玉コレステロールを増加させます。

トランス脂肪酸を多く含むのは、マーガリンやショートニング、およびそれらを使って作るクッキーやパン、ケーキなどです。

肉や乳製品も大事な栄養分なので、食べてはいけないというのではありませんが、それらの摂取はほどほどに留め、なるべく飽和脂肪酸やトランス脂肪酸を含まない食品を摂るようにしましょう。牛乳の脂肪分が気になる方は、低脂肪乳に替えましょう。

③ごはんの大盛りはやめよう

ごはんやパン、うどんやそばなどの炭水化物は、分解される過程で糖分に変わり、過剰な摂取を続けると糖尿病を引き起こします。また、血液中の中性脂肪を増やし、それが悪玉コレステロールの増加につながって、脂質異常症をも引き起こします。

糖分は、肥満や糖尿病を呼ぶだけでなく、動脈硬化にも大敵なのです。洋風のケーキや和風のアンコもの、清涼飲料水などに、糖分が豊富なのは言うまでもありません。とくに、多くの清涼飲料水には、びっくりするほどの糖分が含まれています。冷たい飲料で甘く感じさせるためには、大量の糖分が必要なのです。

まずは、ごはんの大盛りを避けましょう。ごはんでお腹をいっぱいにするのではなく、少量ずつでもいろいろなおかずを用意して、バランスのいい食事を心がけましょう。甘い清涼飲料水を毎日のように飲むのもやめましょう。

甘いものが欲しければ、アルコールにおける「休肝日」のように「休甘いもの日」を設け、甘いものを週に何度かの楽しみにしましょう。

④タンパク質を摂るなら肉よりも魚

近年、肉類が主体の西欧的な食生活ではない、魚食が中心の、日本や地中海風の食生活が見直されつつあります。

デンマークで行なわれた調査(1972年)によると、急性心筋梗塞を発症する比率は、デンマーク人が40%だったのに対し、魚をたくさん食べるイヌイット(北方の寒冷地帯に暮らす人々)はわずか3%でした。

日本においても、厚生労働省の研究報告「魚食と心疾患との関係」(2006年)によれば、魚をたくさん食べるグループ(1日当たり180グラム)は、少ししか食べないグループ(1日当たり20グラム)より心疾患のリスクは約40%低く、中でも心筋梗塞のリスクは約55%も低くなっています。また、魚に含まれるDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)といった不飽和脂肪酸の摂取量を見ると、最も多く摂るグループ(1日当たり2.1グラム)では、最も少ないグループ(1日当たり0.3グラム)より心筋梗塞のリスクが約65%も下がります。

DHAやEPAには、中性脂肪を減らし、血液がドロドロになるのを防ぎ、血栓をできにくくする効果があります。特にアジ、サバ、イワシ、サンマなどの青魚は、DHAやEPAを豊富に含んでいます。

心筋梗塞の予防には、肉料理よりも、DHAやEPAの豊富な魚料理です。できれば2日に1回、少なくとも週に1~2回は魚を食べましょう。

⑤野菜や海藻からミネラルを摂ろう

血液中のカリウムが増えると、ナトリウムが排出され血圧が下がります。高血圧の予防は心筋梗塞の予防に直結するので、カリウムの摂取は大事です。カリウムを豊富に含むのは、トマト、カボチャ、ほうれん草、サトイモ、ジャガイモ、セロリといった野菜類や、バナナ、シイタケ、納豆などです。

カルシウムの摂取が少ないと、骨などからカルシウムが溶け出て血液中のカルシウムが増え、血栓ができやすくなります。カルシウムを豊富に含むのは、牛乳や小魚を筆頭に、納豆や豆腐などの大豆製品、ヒジキや昆布などの海藻類、切り干し大根などです。緑黄色野菜にもたくさん含まれています。

納豆には、カリウムやカルシウムだけでなく、血栓を溶かす働きのあるナットウキナーゼという酵素も含まれています。

また、マグネシウムをカルシウムと一緒に摂ると、血圧を抑え、心疾患のリスクを下げます。マグネシウムは乾燥ワカメ、浅利、煮干し、クルミやアーモンドなどのナッツ類などにたくさん含まれています。

野菜に含まれるビタミンA、C、Eは、動脈硬化を促進する活性酸素を除去してくれます。玄米や全粒小麦などの未精製穀類にも、ミネラルやビタミンが豊富です。

以上を要するに、野菜類、海藻類、大豆製品などは、体に大切なミネラルやビタミンの宝庫。心掛けて摂取するようにしましょう。

⑥努めて食物繊維を摂ろう

近年、心筋梗塞に果たす食物繊維の役割が注目されています。

体内でなんらかの炎症が起こると、血液中にCRP(C-反応性タンパク質)という物質が増えます。血管の炎症は心筋梗塞のきっかけともなるので、CRPは心筋梗塞や動脈硬化のマーカーとして注目されているのですが、食物繊維はその血管の炎症を抑える効果があるのです。

米国マサチューセッツ医科大学の報告(2006年)によれば、食物繊維をたくさん摂るグループ(1日当たり22.4グラム)は、最も少ないグループ(1日当たり10.2グラム)よりCRP濃度が約63%も低くなっていました。食物繊維をたくさん摂る人はCRP濃度が低く、心筋梗塞のリスクも低下するというわけです。

食物繊維の多い食品は、満腹感を与えてくれるので過食を防ぎます。血糖値の上昇も抑えてくれます。

食物繊維が豊富なのは、コンニャク、ゴボウや切り干し大根などの根菜類、ヒジキや昆布などの海藻類、サツマイモやサトイモなどのイモ類、キノコ類などです。食卓のメニューを工夫して、たくさん食べるようにしましょう。

⑦食事はバランスが大事

いくら体にいいと言っても、何かひとつの食材に偏った食事をしていては、むしろ体には逆効果。要は、タンパク質、脂質、糖質(炭水化物)、ビタミン、ミネラル、食物繊維などをバランスよく摂ることです。

それと共に、朝食を抜かず、三食きちんと決まった時間に食べる、といった規則正しい生活が望まれます。間食や夜食も控えましょう。夜遅い食事は肥満の元です。

暴飲暴食も体のバランスを崩します。「百薬の長」と言われるアルコールも、ほどほどの摂取を心がけてください。ビールなら中瓶1本、日本酒なら1合程度が、1日のアルコールの適量です。

心筋梗塞の予防方法3つ【運動編】

心筋梗塞の予防には、食生活における工夫と並んで、運動が効果的です。次の3つを実践しましょう。

①軽い運動を日常的に

運動不足を放置していると、やがて筋肉量が減ってしまいます。筋肉量が減ると基礎代謝も落ち、太りやすくなります。その結果、内臓脂肪がつき、血液の循環も悪化して、動脈硬化が促進されます。

だから、とにかく体を動かしましょう。しかし、かといって、どんな運動でもいいというわけではありません。

勧められるのは有酸素運動です。これは、しっかり呼吸をしながら続ける、軽いゆったりとした運動で、たとえば、ゆっくりペースのジョギング、自転車こぎ、水中歩行、スローペースの水泳といったものです。

お勧めできないのは無酸素運動です。これは、息をこらえて力を一瞬に出す、瞬発力を要求される激しい運動で、たとえば、懸垂、腕立て伏せ、短距離走、重量挙げ、格闘技といったものです。これら無酸素運動は、むしろ心臓に過剰な負担をかけてしまいます。

有酸素運動は、早朝や深夜を避け(血管が日中より収縮しているので危険です)、1回当たり30分程度、週に3~4回行なうようにしましょう。

②エスカレーターやエレベーターには乗らない

自動車のある生活が当たり前になり、駅やショッピングモールにエスカレーターやエレベーターがあるのが普通になって、日本人は昔ほど歩かなくなりました。

しかし、歩くのは健康維持の基本です。筋肉を使えば使うほど基礎代謝が上がり、血液の循環がよくなり、動脈硬化の予防になります。

1、2階上に行くのなら、エスカレーターやエレベーターに乗らず、歩いて上がる習慣をつけましょう。階段や坂道は、無料のトレーニング・マシンだと思いましょう。

③歩くときは早足・大股で

運動をする時間がほとんどない、そもそも運動は苦手だ、エスカレーターやエレベーターにはついつい乗ってしまう、というような方には、大股での早歩きをお勧めします。これなら、通勤や買い物の途中でも簡単にできます。

ラジオ体操や早歩きなどを1回30分以上、週に5回行なうと、1カ月で1~2%ほど内臓脂肪が減るという報告があります。

大股で元気よく早歩きをすると、背筋もぴんと伸びて爽快です。ラジオ体操を朝や昼の決まった放送時間にやるのが無理なら、録音しておいて、気の向いたときにやればいいのです。ただし、ひざや腰が痛いといった持病のある方は、無理は禁物です。

このほか、タバコも百害あって一利なしです。ストレスも発症の引き金になります。規則正しい生活で、過剰なストレスをためないようにしましょう。

心筋梗塞の症状

心筋梗塞に最も特徴的な症状は、激しい胸の痛みです。脂汗が出るほどの痛みで、胸に締めつけられるような圧迫感(あるいは焼けつくような感じ)が生じます。

狭心症の場合、痛みは数分から15分程度で収まるのですが、心筋梗塞では通常30分以上続きます。そのため恐怖感や不安感を覚える人が少なくありません。

痛むのは、主に胸の中央部から全体にかけてです。ただし、背中が痛んだり、左胸から顎のあたり、あるいは左肩から左腕にかけてのあたりに痛みが広がったりすることがあります。そのため、心筋梗塞とは思わず、胃が痛いとか、歯が痛いとか、心臓以外の痛みと勘違いする人もいます。

痛み以外に、呼吸困難、冷や汗、吐き気、脱力感、動悸、めまいなどを訴える人もいます。失神したり、ショック症状を呈したりする場合もあります。

病院に行くべきかどうか判断基準の目安

急性心筋梗塞を起こす人の約半数には、発症する1~2カ月前くらいから前兆があります。胸の痛みや胸が締めつけられるような圧迫感が、最初のうちは5~10分間程度繰り返され、だんだん大きく激しくなり、頻度も増すのです。

この前兆は、安静にしていればほぼ収まるので、軽く考えて放置してしまいがちですが、この段階で病院にかからないと、ある日突然、激しい発作に襲われる(心筋梗塞を発症する)恐れがあります。

また、残りの約半数の人には、前兆らしいものがありません。糖尿病や高血圧症の人、高齢者などは、しばしば前兆の痛みを感じません。

そうした人でも、不整脈が出たり、急に激しい動悸がしたり、脈が異常に早くなったりドキンと飛ぶ感じがしたりしたら、心筋梗塞を疑って医師の診断を仰いだほうがいいでしょう。

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まとめ

心筋梗塞は、死に至りやすい危険な病気ですが、原因のほとんどは血管の動脈硬化にあります。動脈硬化は、食事や運動など、普段の生活の仕方に気をつけることで充分に防げます。

まずは食事の内容に気を配り、努めて体を動かすよう心掛けましょう。

ご心配であれば、近くの医療機関、できれば循環器の専門クリニックに受診することをお勧めします。
もちろんニューハート・ワタナベ国際病院においでいただければ拝見させていただきます。
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