僧帽弁置換術について
僧帽弁置換術とは、上手く機能しなくなった僧帽弁を取り換える手術です。僧帽弁が損なわれると、血液がちゃんと流れなくなり、心臓が正常なポンプ機能を果たせなくなります。僧帽弁置換術とは、心臓の弁のひとつである僧帽弁を人工弁に置換する外科的な治療方法です。英語ではこの手術をMitral Valve Replacement (MVR)と呼びます。Mitralは僧帽、Valveは弁、Replacementは置換の意味です。
僧帽弁狭窄症に対する一般的な治療方法は弁置換術ですが、他にも、自己の弁を温存し修復する弁形成術が可能な場合や、カテーテル法もあります。
ニューハート・ワタナベ国際病院では、僧帽弁閉鎖不全症に対してはほぼ全例に弁形成術を行っておりますが、僧帽弁狭窄症に対しては弁置換術になる事がほとんどです。しかし、病変によっては僧帽弁形成術が可能場な場合がありますので、ご相談ください。
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僧帽弁置換術
ニューハート・ワタナベ国際病院では、手術支援ロボット・ダビンチを用いたキーホール弁置換術を行っています。傷口3つから、僧帽弁を人工弁に置換することが可能です。胸に3つの小さな穴を開け、そこからメスや鉗子、カメラなどを装着したロボットのアームを差し込んで行なう内視鏡手術です。小切開の内視鏡手術(MICS:ミックス)と比べると、さらに傷口が小さいため美容的にも優れており、術中の出血が少なく、術後の痛みも軽い手術です。また、コンピュータ制御された多自由度の鉗子や、高解像度立体画像の映像システムにより、術野が安定し、MICSよりも繊細で高度な操作を行うことが可能です。2024年6月から、このロボット弁置換術も保険適用となりました。
弁置換術で用いる人工弁には、機械弁と生体弁があります。機械弁は、特殊なカーボン材でできていて寿命が半永久的ですが、弁の周辺に血液が凝固しやすいという欠点を持っています。そのため、手術後、血を固めないための薬剤(抗凝固剤:ワーファリンなど)を毎日飲み続ける必要があります。
一方の生体弁は、牛の心膜や豚の大動脈弁を加工したものです。そのため、機械弁におけるような血液凝固の心配はありませんが(ただし、手術後3〜6か月くらいは抗凝固剤を服用する必要があります)、機械弁ほど長持ちせず、僧帽弁に入れた生体弁は一般に、10年から15年程度(若い人だと10年以下)で劣化し、そうなったら再手術が必要となります。
手術時間と入院日数
僧帽弁置換術(MVR)の手術時間は、ニューハート・ワタナベ国際病院でのダビンチ手術では、約3時間です。
手術後の患者さんの入院日数は、ダビンチ手術の場合で1週間程度、MICSなら8~14日です。退院後、自宅で1~2週間療養すれば、社会復帰が可能です。
術後管理と注意点
僧帽弁置換術を受けた後は、左室から大動脈に送り出される血液の量が術前よりも増えます。その結果、左室の心筋の仕事量が増え、左室の内圧が上昇し心筋も疲労しますので、術後は血圧を低めに維持するよう心掛けてください。
胸骨正中切開手術では、大きく切り開いた胸骨が元の通りにくっつくまで時間がかかり、入院期間が長期に及ぶ可能性があります。また、手術が原因の感染症が起こりやすいだけでなく、骨髄の詰まった胸骨を正中切開するので出血も多く、術後管理に細心な注意が必要です。
その胸骨正中切開手術に比べれば、ダビンチ手術の術後管理は簡明で、胸に3つの小さな穴を開けるだけなので、出血は極めて少なく、傷はすぐに塞がります。神経を傷つけることもなく、痛みも少なく、早ければ術後3日で退院することも可能です。
手術後の運動
低侵襲のダビンチ手術やMICSの場合は、胸骨にメスを入れないので、術後の運動制限はほぼありませんが、従来の胸骨正中切開による僧帽弁置換術の後は、切り開いた胸骨が再びくっつくまでの約2か月は運動ができません。また、術後すぐには心機能が充分に回復していないケースが多く、しばらくの間は心臓に負担のかかる運動はやめ、医師と相談し、経過を観察しながら、徐々に体を慣らすようにしてください。
まとめ
僧帽弁狭窄症だと分かったら、まずは専門医を受診することをお勧めします。また、手術適応だと診断されている方は、心不全などの症状が悪化する前に、なるべく早めに手術を検討されると良いでしょう。
心臓手術は、執刀医の間で技術力に大きな格差があり、慎重な病院選びが望まれます。また、安全性の面でも予後の面でも、低侵襲手術であることも重要な考慮点でしょう。セカンドオピニオンを活用されるなど、納得のいく治療を受けましょう。