大動脈瘤に対する治療は、1960年代より大動脈瘤を切除して人工血管に置き換える方法が行われるようになりました。 この人工血管置換術は最も標準的な治療法として、日本を含む全世界で行われています。
私自身も大動脈瘤に対する人工血管置換術には、助手・執刀・指導を合わせると約800人の方の治療にあたっています。
手術成績(金沢大学病院での約10年間、2001年~2011年)はけっして悪くはないのですが、体力的に心配のある方や一度おなかの手術を受けたことがある方には、難しい点がある手術といえると思います。
近年では、ステントグラフト治療(内挿術)と呼ばれる新しい治療法が開発されたことにより、大動脈瘤に対する手術の幅が広がりました。
人工血管置換術とは?
大動脈瘤を切除して人工血管を縫い付ける50年前から行われており、根治性が高い治療方法です。(図1「人工血管」)
胸部大動脈瘤では、開胸した後に人工心肺を用いて臓器の血流を維持しながら手術を行います。動脈瘤の場所が、頭へ行く動脈や脊髄への動脈、他の内臓への動脈などにかかっているときには、それらの動脈も人工血管につないで再建します。
人工血管置換術の手術内容
人工血管置換術の際には一般的に、患者さんの体を20℃の超低体温状態にしますが、この方法では脳梗塞や感染症、肺炎などの合併症のリスクが高く、また血が止まりにくく、手術に時間がかかり、死亡率も高い状況でした。このため、当院では20℃ではなく、32℃の軽度低体温で手術を行う方法を開発し実践しております。さらに縫合方法も出血しない方法を採用したことで、2~3時間程度で手術が終わります。輸血無しで手術を行うことも可能です。
人工血管置換術のメリット
原則どの場所に発生した大動脈瘤でも治療が可能です。また、大動脈瘤を切除するため再発が少なく、大動脈瘤の標準的な治療であることから、手術後の長期予後のデータが分かっています。
人工血管置換術のデメリット
胸骨正中切開のアプローチのみということです。